他力野 淳

「残る」ことは、決して当たり前じゃない。誰もが諦める課題に向き合い、経営の力で文化を紡ぐ

他力野 淳 / Tarikino Jun

CEO

「文化を紡ぐ」をビジョンに掲げるバリューマネジメントCEOの他力野が、創業の決意と目指すもの、そして自身が信じる価値について語ります。

8月9日。瓦礫の街で突きつけられた「宿命」

8月9日。原爆が投下され、長崎の街が焼き尽くされた日です。長崎の人間にとって、決して忘れることのできない特別な日。多くのものが失われたその日に、私は長崎の地に生まれました。不思議な巡り合わせで、それから5年後の8月9日、まったく同じ日に弟も生まれたんです。

自分の誕生日ですから、忘れるはずがありません。物心ついた頃から、誕生日を迎えるたびに「8月9日」という日が持つ重みと、否応なしに向き合うようになっていきました。

そして21歳のとき、移り住み育った神戸の地で、阪神・淡路大震災が起こりました。

見渡すかぎり続く、がれきの山。昨日まで当たり前に存在していた街や日常が、一瞬にして消えてなくなる。その光景を目の前にして、私はただ立ちすくむしかありませんでした。あの時、骨の髄まで思い知らされたんです。「『残る』ということは、決して当たり前ではないんだ」と。

原爆が投下された日に兄弟そろってこの世に生まれ、すべてを失った神戸の街を目の当たりにした私。そんな私が、この人生でやるべきことは何なのか。それは、「誰かが心から大切にしてきたもの」や「世の中から本当に必要とされているもの」を、価値あるものとして後世に残していくことだ。そう、強く心に誓ったんです。

「残したい、でも残せない」。その葛藤を事業で超える

日本という国が2000年以上も続く中で、時代の波に飲まれ、踏み潰されてなくなっていったもの、人々が諦めて手放していったものが山ほどあります。しかし、その中でも大切なものは、人々の手によってずっと受け継がれてきた。それが「文化」と呼ばれるものであり、「歴史」として名を残しているものではないでしょうか。

私は、その文化や歴史に込められた先人たちの魂を感じ、汲み取りたい。「残したいけれど、残すことができない」という所有者や地域の深い葛藤。それを乗り越えて、守り、紡いでいくこと。それが私の使命であり、この世に生を受けた意味だと本気で思っています。

誰もが目をそらす壁に、「経営」を持ち込む

とはいえ、「残したい」という想いだけでは、文化財は守れません。

老朽化、相続税の問題、そして現代の厳しい建築基準や消防法。歴史的建造物を残そうとすれば、誰もが目をそらしたくなるような巨大な壁がいくつも立ちはだかります。文化庁の求める「保存」と、事業としての「活用」。これらを両立させるのは、本当に気の遠くなるような作業です。

「そんなの無理だ」「割に合わない」。周囲の誰もが諦める課題でした。でも、だからこそ私たちがやるんです。精神論やボランティアではなく、そこに「人の力」、すなわち「経営(マネジメント)の力」を持ち込む。綺麗事ではなく、ビジネスとしてしっかり利益を生み出す仕組みを作って初めて、本当に価値あるものを復活させ、持続させることができると学んできました。

自分の生き方と、会社の名前が重なる場所

必要とされ、守るべきものに、経営の力を掛け合わせて新たな価値を生み出していく。これこそが、私たち「バリューマネジメント」であり、この社名の由来そのものです。

私にとって、生きることと会社を経営することは、完全に地続きです。8月9日に生まれ、震災を経験した私だからこそ、見過ごせない風景がある。誰もが諦める課題から逃げずに向き合い続けることは、私自身の人生に対するケジメでもあるんです。

人にしか生み出せない価値を、どこまでも信じる

文化や歴史がそうであるように、私は「一人ひとりの人間」も、この世に生まれ、生きてきたことそのものに深い意味があると思っています。

AIやテクノロジーがどれだけ進化しても、人の心に寄り添い、文化の価値を見出し、それをビジネスとして形にしていくのは「人」にしかできません。だから私は、人にしか生み出せない価値を、どこまでも信じています。

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